今回、BSFC-s(家族介護者用負担感尺度短縮版)の日本語版を開発し、論文として発表しました。ここで疑問に思う方もおられると思うのですが、なぜ、今になって介護負担感尺度を作成したのか、について説明したいと思います。
もともと、介護負担感はZarit介護負担感尺度が有名ですし、もっとも利用頻度が高い尺度だと思います。しかし、その後介護者心理の研究がストレスプロセスモデルを用いたものが増えるようになり、Zaritの尺度だとストレスプロセスモデルを構成する他のストレス反応等との概念的重複があるため、新たにいくつかの尺度が開発されてきました。
以前、2001年に主観的介護ストレス評価尺度を開発したときも、そのように考えて2因子からなる尺度を作成しました。
その後、研究が進むにつれ、ストレスプロセスモデルにおいて、介護負担感や介護ストレスに対する認知は複数の要因があったとしても、一つにまとまることがわかってきました。つまり、私が作成した尺度であっても、2因子に分けて測定する必要がなく、1因子の「介護ストレス」として捉えた方が現実に即していると思われます。
具体的に、研究上ではどのような意味かというと、介護負担や介護ストレスの複数の因子のうち、どの因子がもっとも重要か、という分析を行うことはあまり意味がないということです。それよりも、全部まとめて分析し、そのまとまった介護負担感や介護ストレス全般に対し、軽減効果や増幅効果を有する要因を見つけ出す、という研究が社会的には求められていると思います。
そう考えると、昔作成した主観的介護ストレス評価尺度をこのまま自分の研究で使用し続けることに少し抵抗を感じるようになりました。近年、コロナ禍で対面での学生を連れた活動が難しくなり、ウェブ調査をするようになったのですが、そこでせっかくなら介護負担の新しい尺度を作成してみようと思い立ったわけです。
介護負担の新しい尺度について検索すると、もちろんたくさんの検討すべき尺度が挙げられるのですが、その中でBSFCという尺度が気になりました。短縮版なら項目数も少ないですし、ヨーロッパを中心として、様々な国でローカルバージョンが作成され、ほとんどすべてがフリーで使用できます。私も自分の尺度は研究のためならできるだけフリーにしたいと思っていましたので、このBSFCの作者に連絡を取ったところ、使用許可をいただくことができました。
介護負担の研究は、現在様々な尺度があり、どれを使用するのかというのは慎重に検討すべき事項です。BSFCのように、単純にすべての項目を合算し「介護負担感」を測定したいというケースもあるでしょうし、下位尺度に興味があるケースもあると思います。個人的には、ストレスプロセスモデルの検証については、もうそろそろ終わりにして、心理だけでなく、医療・福祉領域もストレスプロセスモデルを前提とした、介護負担感を中長期的に軽減する要因を明らかにする研究が増えてほしいと願っています。
以上
0 件のコメント:
コメントを投稿
注: コメントを投稿できるのは、このブログのメンバーだけです。