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2023年3月13日月曜日

日本語版フレンドシップスケールの尺度作成の論文に関するコメント

 日本語版フレンドシップスケールが本日(3/13)からダウンロード出来るようになりました。

この尺度を作成するときに考えていたことや余談を書いておきます。


  • 【校正ミス】図2のモデル図の変数名とエラーとの対応が私の校正ミスでバラバラになっています。正確には、変数名に対応して上からV4←E4、V1←E1、(V3←E3は変更なし)、V6←E6、V2←E2、V5←E5のようになります。訂正してお詫びいたします。


以下は余談です。

  1. この尺度というか、論文の一番の特徴は、尺度の使用許可をどうやって取ったか、という箇所だと思う。普通、査読論文ではここは書かないだろうし、自分が査読者でも「ここは必要ないのでは」という指摘を返すと思う。でも、これは紀要論文だし、「著者が亡くなっている場合にどうやって尺度使用許諾を得るか」ということに直面し、悩んでいる研究者もいるかと思い、あえて今回は書いてみた。
  2. もともとは高齢者向けの尺度なので、何故大学生で調査しているのか、という点が気になるかもしれない。しかし、この尺度の項目を見ると、モラール尺度のように高齢者に特化した内容は含まれておらず、全年齢対象に調査可能な項目しか入っていない。コロナ禍で社会的孤立というのは全年齢対象の問題になっていると思われるので、一般成人対象でも使える簡便な尺度として、この尺度は再定義できそうな気がしている。
  3. でも、もう少し年齢層の高い社会人や高齢者のデータも、次年度(2023年度)に取る予定である。多分卒論で取ることになると思う。
  4. この尺度の使い方として、単純に得点の高い人をリスキーだと定義して分析するだけではなく、どちらか一方だけ高い人、というのをスクリーニングして分析する、ということも出来る。つまり、「周りに家族や友人がいるのに、高い孤独感を持っている人」「毎日ほぼ誰とも話をしないけど、いざ相談しようと思ったらいつでも出来ると考えている人」を同定し、その人が他にどのような問題を抱えているか、という分析も出来ると思われる。当研究室では、卒論で孤独問題に興味がある学生がいたらやってもらうかもしれないが、今のところは未定。

日本語版フレンドシップスケールの作成と信頼性・妥当性の検証: 社会的孤立を測定する新しい尺度開発の試み

 大学の紀要に新しい社会的孤立感尺度に関する論文が掲載されました。


安部幸志(2023). 日本語版フレンドシップスケールの作成と信頼性・妥当性の検証:
社会的孤立を測定する新しい尺度開発の試み. 鹿児島大学法文学部紀要人文学科論集,90,1-7.

http://hdl.handle.net/10232/00032397

○尺度の説明について
これまで、社会的孤立を測定する尺度は、孤独感あるいは孤立状態に焦点を当て、どちらかを測定するものが大半を占めていました。しかしながら、大勢の支援者がいる人であっても孤独を感じる人はいますし、社会的に孤立し、友人がいない状態であっても幸福を感じる人もいます。つまり、社会的孤立を測定するためには、孤独感と客観的な孤立状態のどちらかだけでは不十分で、両側面からのアプローチをしていくことが求められます。そこで、本研究では、孤独感と主観的な孤立状態のどちらも含有する社会的孤立感尺度である、日本語版フレンドシップスケールを作成することを目的としました。

○尺度の使用許諾について
この尺度の開発者はメルボルン大学のDr. Graeme Hawthorneです。残念ながらDr. Graeme Hawthorneは2016年に他界されているため、我々は著作権を相続しているパートナーのDr. Lesleyanne Hawthorneに連絡し、日本語への翻訳と使用に関する許諾を得ました。オリジナルの英語版尺度も研究目的の使用については特に許諾の必要は無かったようですし、我々が作成した日本語版についても、研究・教育目的での利用であるならば自由に使用して頂いて構いません。事前・事後の許諾なく使用して頂いて結構です。なお、それでも倫理委員会等の規定で使用許諾の書類が必要な場合は、出来るだけ迅速に対応致しますので、ご連絡下さい。

○使用方法、信頼性と妥当性
この尺度は6項目で構成されており、研究目的によって全体得点を「社会的孤立」として扱うか、「孤独感」と「孤立感」という2因子として扱うことが可能です。尺度全体の信頼性はα=.805で、下位尺度の「孤独感」のαは、.836、第2因子の「孤立感」は、.816でした。再検査信頼性について算出した結果、全体得点および下位尺度得点ともに強い相関が認められました。

 尺度の妥当性については、構造方程式モデリングを用いて英語版と同様の分析を行ったところ、全体としては許容範囲内ではありますが、いくつかの適合度指標において、非常に良いとは言えない値が観察されました。そこで英語版とは異なり、2因子構造とした分析を行ったところ、適合度指標は大きく改善することが明らかになりました。よって、本尺度はオリジナルと同様に1因子構造として使用することも可能ですし、2因子構造として使用することも可能な尺度であると判断できます。

 基準関連妥当性を検証するために、K-6との相関分析を行ったところ、全体得点および2つの下位尺度ともに有意な相関が認められました。よって日本語版フレンドシップスケールは十分な信頼性と妥当性を備えた尺度であると判断できます。

 尺度の詳細については、上記URLにある論文のPDFを参照して下さい。なお、実際に質問紙を作成する際のイメージとして、尺度項目を画像で貼付いたしますので、ご参考になれば幸いです。